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妄想日記「骨とLINE電話」

金木あや 24歳 アルバイト

「俺たちってなんなんだろうな」
お風呂あがり、いつものように男とLINE電話を繋いでいた。テレビを見ながらかける時もあれば、本当にすることがないからかける時もある。どちらにせよ、無料でいつまでも電話ができるのだからいい世の中になったものだ。わたしは、ほとんど何も考えずに声を出した。
「俺たちって?」
「付き合ってないけどセックスはする、長電話もする」
「なんでも、いいよ」
「じゃあ、恋人ってことにする?」
「あー、でもわたし、貴方とディズニーランドはいけないよ」
「どうして?」
「だって、貴方とアトラクションを待つ時間や、何に乗ろうかって話し合う時間が想像できないもの」
「こんなに毎日、電話してるのに?」
「うん。夢の国にわざわざ行って話すんだよ?それはもう、恋じゃん。ラブじゃん。電話よりはるかに労力をかけて会話してるんだから別物だよ」
「別物なの?」
「あー、だから簡単に言うと、わたし貴方とはセックスとどうでもいい電話ができれば十分ってこと」
「ふーん、そう言われるとなんか質素な関係だな」
質素な関係、と言われてわたしはカスカスになった骨を想像した。カルシウムが足りていない、向こうが透けそうなそんな骨。
「じゃあ、こうしよ。今日から私たちは骨だ」
「え、まって。どういうこと」
「だって、セフレって言いたくないんでしょ?だから、こんなまどろっこしいこと聞くんでしょ?だから、もう私たちは質素でカスカスな「骨」という関係ってことにしよ」
「…前衛的だね」
「かっこいいでしょ」
「でも、カスカスだったらすぐに折れてしまいそうだね」
「うん、どうせすぐに折れるよ」
「それは、寂しいな」
「そういうものなのよ、骨って関係は」
「僕がいなくなったら次の骨を探すの?」
「そうだろうね、骨がないと困る」
「今度はちゃんとした恋人を探せばいいのに」
男が寂しそうな声で呟いた。この男のこういうところは少し好きだった。本当は、どうでもいいと思っているのに悲しんだり寂しがったりできる。その女々しさが時々、わたしより女らしくて羨ましく思う。
「いらないよ。もう、そういうのは」
「まだ、24歳なのに」
「じゃあ、しばらくはいい。恋や愛って、胃もたれしちゃうし、この世の中それどころじゃないでしょ?」
「まぁ、ねぇ」
「先のことを考えて、結婚だの出産だの行動に移して実現できる女性は半分くらいなんじゃないかな。わたしは今、そんなこと考える余裕なんてないよ。バイト生活だし、一年後の自分なんて想像すると不安になる。だけど、体は24歳。セックスは必要でしょ?だから、骨が必要なの」
「ああ、それならなんか僕の存在価値がありそうだ」
「…こんなデタラメでよくそう思えるね」
「えっ!デタラメだったの?!」
「わたしたちは骨なんだから、いつもデタラメでどうでもいい話しかしないんだよ」
「ふぅん、あっ!そろそろ寝る時間だ」
「わかった、じゃあおやすみ」
「うん、おやすみ」
LINE電話を切って、濡れた髪に巻いていたタオルを外すと、もうほとんど乾いていた。静まり返ったワンルームで、わたしの孤独がポツンと浮いている。わたしは、少し「骨」の寝息が恋しくなった。

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歌絵文作家 岡山生まれ 本の虫