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楽描き「まだちょっとある」

まだちょっとある、と
思いたかったんだろうか

犬はいつまでも舐め続ける
もう空っぽになった餌入れを
まだちょっとある
まだちょっとあるはず
犬を餌入れから剥がす時
少し意地悪な気持ちになる

背中を向けて眠る君の背中に
終わりそうな恋の灯火
まだちょっとある
まだちょっとあるはず
手を伸ばしては止まる
拒絶されるのはいつだって辛い

高熱を出した子供は苦しそうだ
味もわからぬお粥を
舌を焼きながら食べ続ける
まだちょっとある
まだちょっとあるはず
母が梅干しを乗せてくれた
生きる為には十分な愛だった

途中でやめられなくなった読書や
瓶の底に残ったほんの少しのジャム
毎年、一歩づつ近づく死の気配も
まだちょっとある、と思いたい
まだちょっとある、と思いたかった

片付け忘れた風鈴が
冬の寒空の下、りんりんと鳴る

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歌絵文作家 岡山生まれ 本の虫