
わたしのライバル
7
わたしは匂いで思い出が蘇るタイプだ。
匂いってやつは本当にふとした瞬間にやってきて、嫌味なく思い出を引っ張り出してくれる。
初めて好きになった人の衣服は
ダウニーの匂い。
初めて買った香水は
フローラルとフルーツが混じった匂い。
泣くのを我慢しながら帰った帰り道は
青空に枯れ葉の匂いが混じってた。
すれ違った人から
昔好きだった人のタバコの匂いがした。
銘柄まで覚えてる。
ちょっとバニラの匂いがするやつ。
不甲斐ないライブの後は
いつも金属の匂いがして
気付いたら奥歯に力を入れていた。
悔しい時の匂い。
音楽もそれと近いことができると信じている。
だから、「あの曲聞くとさあの時の気持ちを思い出すんだよね」って、言われるような曲を書きたいと思う。
それでも、正直
匂いには勝てない気がする。
音楽を聴くためにはイヤホンが必要で、
iPodや携帯に音源を入れなくてはいけなくて、
CDなら機械に出し入れしなきゃいけない。
匂いは、何にも必要ない。
前触れもなくよぎるそのサプライズ感が、より強い思い出を引っ張り出してくれる気がする。
今日、自宅のエレベーターに乗り込んだら
突然、唯一無二だった親友の香りがして
どうしようもなく会いたくなってしまった。
悔しいなぁ。
だから、わたしの曲作りのライバルは「匂い」だ。匂いのする音楽を書きたい。
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歌絵文作家 岡山生まれ 本の虫