見出し画像

妄想日記「変わったり変わらなかったりする親友へ」

小田真紀 19歳 学生 2020.10.27
電車を降りると、その街は音や物や人で溢れていた。私は、思わず立ち止まって「全然、自粛しとらんやん…」と呟くと後ろから人がぶつかってきた。慌てて歩き出すものの、今度は出口の多さにギョッとする。東口と中央東口、西口と中央西口、南口と東南口と書いている。「もう、こうなったら賭けや!」私は、心の中でそう叫んで中央東口の矢印に向かって歩き出した。

そんな私の決断から30分後。私は大学進学でばらばらになった親友兼幼馴染の順子にドトールカフェで説教されていた。
「真紀、中央って書いてあったから安心したんやろ」「正解」「だから、あたしラインしたやん。南口で出てね!って」「ごめん」「めっちゃ探したわ!『何が見える?』って聞いたら『空』って返ってきたときは、危うく真紀を見捨てそうになった」「見捨てずに探してくれてありがとうございます…」「ほんま、これやから田舎もんは困る」「…順子も、田舎もんやろ!うちんちの隣の家で生まれて育っとるし!」「生まれと育ちは同じでも出荷先がちゃうねん」「野菜の話しとんか」「ちゃうわ、あほ」そこまで言って、何だか可笑しくて二人で笑ってしまった。と同時に、懐かしさがジーンと心に広がっていくのが心地いい。

順子はスマホの時計をちらりと見て言った。「今日は、うちんち泊るしその前にご飯せん?」「店、決まっとるん?」「うん、予約してる」「ふうん、スマートやん」「残念、いくらあたしがスマートでも真紀とは付き合えん」「告ってもないのに振られたわ、あたし」「かわいそうに」順子と再会してからずっとこんな調子だ。田んぼと山しかない景色から、都会の風景に変わっただけで順子と私は変わっていないことを、会話をしながらお互い確かめ合っているみたいだった。

順子の予約してくれた店に到着し、店内に入ると、大きな水槽が私たちを出迎える。「すごい!おしゃれやなあ!」私は感動して叫んだ。「ちょ、真紀恥ずかしいから静かにしてて」順子に叱られてしゅんとしながら席に着く。「真紀は辛いもん以外は食べれるよな?」「うん、順子にお任せするわ」「おけ」順子が軽く手を上げ店員を呼ぶ。「この、ハッシュドビーフポワレとコブサラダ、あと、ノンアルコールカクテルを二つください」おしゃれな料理名をすらすら注文する順子に私は驚いて、そのすぐ後に何故だか寂しい気持ちがやってきた。「なあ、順子標準語うまくなったんちゃうん?」「そうかな?」「うん、イントネーションが東京の人やったよ、注文するとき」「あー、でも確かにこっちの友達と喋っとる時はそんなに方言でんかも」「ふうん」「なんよ」「順子も東京に染まっていくんやなあ、思うて。ちょっと、寂しいわ」「そりゃあ、しゃあないわ。周りがみんな標準語なんやから、無意識に真似してしまうやろ」「きっと、あたしのことも田舎もんやから恥ずかしい、会いたくないっていつか言いだすやろな」「おいおい、情緒不安定か」「ふん」私は、ツンとそっぽを向く。微妙な間が二人の間に張り詰めると順子が降参するように両手をあげてこう言った。「真紀のことそんな風に思うわけないやろ。あたしは、別に東京の人になりたいわけじゃないし、むしろお洒落で言葉も綺麗な人に囲まれて落ち着けん日々を過ごしてるわけ。だから、真紀と懐かしい言葉で懐かしい話をできるんが、あたしにとってめっちゃホッとするし、めっちゃ嬉しい」「ふうん、そうなんや」「感想、それだけかい」「しゃあないから、また遊びに来てあげるわ」「なんで、えらそうやねん」我慢できずに二人で笑いあって、そして指切りをする。「今日は、新宿やったから、次回は…」「はいはい、次は上野あたり連れてくわ」順子の笑顔を眺めながら、私は心の中で変わったり変わらなかったりする親友をぎゅっと抱きしめた。

7
singer "song & novel" writer 岡山生まれ 本の虫

こちらでもピックアップされています

SETAの日々煩い
SETAの日々煩い
  • 237本

エッセイ、読書感想 etc.

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。