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妄想日記「20デニールのストッキング」

野々村桃子 23歳 大学生 2020.10.31

私の元恋人たちには、ちょっと変わった趣味趣向があった。ある男性は、自分の服を私に貸したがった。彼の大きめのシャツや、パーカーを着て大学に行くと彼は満足そうだった。ある男性は、ニーハイソックスが大好きでいつも私にそれを履くことを求めた。私は「少女趣味だな」と思いながらも、ニーハイソックスを履き続けた。ある男性は、私に小食でいることを求めた。外で食事をするときは、いくつも料理を頼み、それを一口ずつ食べ、残りを彼に食べさせるととても喜んだ。そんな風に、男性が私に求める風変わりな希望を叶えることがいつしか私の「恋」となった。

今日は、現在交際中の彼とデートの日だ。同じ学科で知り合った彼とは、研究ゼミも同じで、一緒にいる時間が長い。しかし、それでは恋愛感情がなくなるのでは?という危機感から月に一度はどこかに出かけて普通のデートを楽しむことにしている。よって、今日はその月に一度のデートの日で、そして、私が20デニールのストッキングを履く日だ。

何故かというと彼はデートで私に「薄いストッキング」を履くことを求める男性だからだ。理由は、まだ聞いたことがない。20デニールという細かい指示もあるし、理由を聞くのが逆に怖い。でも、それを破いたりするわけではないので、変態的理由ではなさそうだ。変態でないのなら、それでいい。私は、ベージュのストッキングを取り出して足を通した。これで、準備は完了。彼との待ち合わせ場所へ向かった。

水族館デートは、そつなく進んだ。私は、クラゲの赤ちゃんの展示が気に入り、彼はウツボの展示が気に入ったらしい。水族館を出るころには、街は夕日でオレンジに染まっていた。「寒くなってきたね」足元を通り抜けた冷気に思わず私はそう言った。「大丈夫?上着貸そうか?」心配そうに彼が私の方を見た。「ううん、大丈夫。でも、そろそろ衣替えしなくちゃだ」「桃子は、薄着だから心配だ」彼の言葉に私は首を傾げる。「そうかな」「そうだよ」呆れたように笑って彼が言った。「だって、入学したての時いつも大きめのパーカーをワンピースみたいにして生足で登校してたでしょ?夏は、大きめのシャツ一枚に変わるんだけど、とにかくずっと生足で、すごく丈も短くて寒そうだった」「…よく覚えてるね」「うん、いつも風呂上りみたいな同級生って話題になってたし」「そ、そうなんだ」「でも、二年生になった頃、急にミニスカートにニーハイソックスしか履かなくなってさ。太もも、寒そうだなって思ってた」「へ、へえ…」私の体中から、よくわからない汗が噴き出してくる。私の恋愛遍歴は第三者の目にそう映っていたのか、と今さらながら恥ずかしさで一杯になった。そんな私に気付かないまま彼は話し続ける。「で、3年になって俺たち付き合うことになった時にふと思ったんだよね。もう、寒そうな恰好してほしくないなって」「…え?」彼から初めて聞く話に思わず呟いた。「でも、1年の時からずっと丈の短い服しか着てなかったじゃん?デニム履いてるとこなんか見たことないし。だから、そういう服が好きなんだなって。桃子の趣味を否定はしたくなかったから、俺の母親に聞いてみたんだよね」「なんて?」「いや、彼女が丈の短い服が好きなんだけど、生足に近くてあったかいアイテムって何かある?って」「はあ」「そしたら、薄いストッキングを履くだけで温かさがずいぶん違うよって教えてもらってさ」私は、びっくりして彼の顔を見上げた。「それで、20デニールのストッキング?」すると、彼は私の顔をちらりと見て頬を赤く染めた。「うん、そういうこと」私は、胸いっぱいに湧き上げる愛しさを感じた。彼の腕をぎゅっと抱きしめる。

「なあんだ、変態かと思ってた」「へ、変態?!」「ううん、なんでもない」

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singer "song & novel" writer 岡山生まれ 本の虫

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