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通販な生活

ぴんぽーん、という音で
ベッドから飛び起きた。

インターホンをやっとこさ押し
エントランスの鍵を解除すると
配達員がエレベーターに乗って
我が家の扉の前に到着するまで
扉の内側は小さな戦場と化す。

大急ぎで髪の毛に櫛を通し
視力の弱い目で眼鏡を探す。
次に、パジャマを脱ぎ捨て、とりあえず目の前のTシャツとジーパンを着用してドアの前に走る。

再び、ぴんぽーん、と鳴った。
そぅーっとドアを開け隙間から、死にかけのミミズのようなサインを書いて荷物を受け取る。

ぼう、っとした頭で
箱の表面を見つめてきっかり3秒後
一気に脳内に血が巡る。

「届いた!!!」

それは、先日ネット通販で注文した服だった。慌てて机の上にスペースを作り開封する。胸は、張り裂けんばかりの期待で溢れている。そうして、カッターでダンボールを開けて商品を取り出すと一気に現実へと引き戻された。

「うそ…だろ。」

そこには、商品紹介の写真とは似ても似つかない素材のタンクトップがよれっとくたばっていた。

思わず、携帯を取り出し写真と現物を見比べる。やはり、全然違う!!!光沢のないしっかりとした布に見えるその写真は、今私の手に握られたスクール水着のような光沢のある布とは似ても似つかない。まるで、別物である。

私は、がくりと肩を落とし
一度落ち着くために席に着く。

「いや、これはこれでスポーティな感じに着れるしいいんじゃないか?」
「うんうん、そうだ!そうだ!」

私の心の中に小さな小人がたくさん湧いてきて私を励ましている。だけど、こんな事を言う小人もいる。

「また、やらかしたの?」
「もう何度目よ、同じ失敗するの。」

私の生活がネット通販中心になってもう2年になる。それまでは、まだ半分の割合で外に出て買い物をしていた。しかし、あまり外に出なくなってからというもの、何度もネット通販で同じ失敗を繰り返している。男性目線で例えると、「飲み屋のお姉さんの写真が全然違うんだよー。」と愚痴っているアレであり、女性目線で例えると、「優しそうな人だと思ってたのに中身は最悪だったわ。」と泣くアレである。

とは言え、失敗ばかりではない。確率的には五分五分である。だが、やはり現品を手に取り吟味してから購入する方が確実な方法であることは確かだ。

だが、それでもネット通販をやめないのには理由がある。

現実的な理由としては
外に出て人混みに揉まれたりせずに
自分のペースで買い物ができるという点。
あと、自分にとって1番大きいのは
この届くまでの「どきどきタイム」である。

気合いを入れて、街に繰り出し
目当ての商品を探していると
どうしても疲れてくるし
そうすると「もう、これでいいや」と
妥協してしまうことが私は多い。
そして、その後に「もっといいものがあったかもしれない」と後悔する。これでは、買い物をする楽しみが薄まってしまう。

だけれど、ネット通販では
商品をカートに入れて
そのあと決済をするまでに
心変わりしてみたり
どういう風に使おうか想像してみたり、
疲れることなく自分のペースで買い物を楽しめる。

さらに、届くまでの時間、
今か今かと待つこの高揚感が
代わり映えのない私の毎日に
刺激と喜びをくれる。

なんだか、非常に言い訳じみているが
そういったわけで、私は「次こそ当ててみせる!」と宝くじを買う人の気持ちも「今度こそ写真通りの女の子と!」と拝んでいる男の人の気持ちも「次こそいい出会いを!」と夜の街に繰り出す女の人の気持ちも、広い意味で言うと「わかる」。

それが、私にとって「ネット通販」であったというだけで。

今日も、ネットの電波を散歩しながら私はどきどきタイムを楽しんでいる。

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singer "song & novel" writer  岡山生まれ 本の虫

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