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窓越しの住人

はーい、いくよー!の掛け声の直後。
「ガッシャーン!ゴロゴロゴロ!」
ここ最近、家の周りが騒がしい。どうやら家を取り壊しているらしい。というわけで、現在、わたしは、ショートケーキのように少しづつ欠けていく見知らぬ人の家を眺めながら生活しています。

ところで、みなさんは
家を壊す様を見たことがありますか?
わたしは、今回が初めてです。

初めてこの様子を目にするまでは、家を壊すと言ってもハンマーで物を壊すようなそんな破壊的なものではなく、レゴを少しずつ剥がしていくような慎重なものなのだろうと思い込んでいました。が、なんと現実は前者の方法に近く、ショベルカーをハンマーのように振り下ろしてバコバコと派手に壊していくのです。

指揮官のような方の掛け声とともにショベルカーが腕を振り下ろす→鉄がガッシャーンと雪崩のように崩れる→一階部分に設置したトラックの荷台に落ちる…という穏やかな気持ちではいられない手順。しかし、どんどんさっぱりしていく家にはちょっとした爽快感もあって、毎日、騒音にビックリしたり、ハラハラしたり、スッキリしたりしと、不思議な体験をしています。

まだ我が家に防音室がなく、その家に人が暮らしていた頃は、窓に向けて設置していたピアノの練習中に、窓と窓を超えて住人の方と目が合うこともあったので、しばらく前に引っ越したことはなんとなく知っていましたし、誰もいなくなった家は、一気に老け込んだようにも見えていました。人が住んでいない、それだけで家はただの鉄の塊になってしまうということです。

そして、家が壊され始め、壁がなくなり、家の内部が晒された時、住人といつも目が合っていた窓が見えました。大きさからしてもしかしたら寝室だったのかな、と思います。朝起きて、気持ちよく窓の外を眺めたのに、ピアノを弾くピンクの頭をした女の子と目が合うなんて、かなり迷惑な朝だったろうな、とか。いろいろ考えているうちに、話したこともなくただ窓越しに時々目の合う人が、ものすごく恋しくなってきたのでした。

それからというもの、この家に対しての弔いに近い気持ちで小さくなっていく家を見てきました。もうほんの一部の鉄しか残っていません。あと数週間もすれば、跡形もなく消えてしまうでしょう。その時まで、騒音がするたびにあの家の方角に向かって心の中でお別れを言おうと思います。窓越しの住人と、元は家の形をしていた鉄の塊に向けて。

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singer "song & novel" writer 岡山生まれ 本の虫

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