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妄想日記「二番か三番目のわたし」その1

杉本かおり 25歳 フリーター 2020.11.3

都合がいい恋って、いくつまで許されるんだろう。大学時代、私が好きになる人には決まって彼女がいて、私が好きになる人はいつも私を二番目か三番目にした。それが、悲しいとも言えるし、これはこれで楽だなと思っている自分もいたり。だらだらと友人と集まり、何となくレポートを提出し、何となく恋もしている。そんな答えをずっと先延ばしにしているような大学生活が終わって、何かが勝手に変わってくれると思っていた。だけれど、周りの人たちがどんどん社会になじんでいくのを横目に、私はまだ変われずにいた。

「あ、やば。タバコ切らしたわ」狭いシングルベットの上で、彼は壁側を向いて呟いた。「アイコスでよければ、貸すよ」「いや、紙じゃないと無理」そう言いながらも、彼は携帯を見ることを止めない。私は、聞こえないようにため息をついてベットから起き上がる。そこらへんに落ちている自分の服を身に付け、彼の背中に声を掛ける。「赤マルでよかったっけ?」「おお。行ってくれんの?助かる、ありがとー」相変わらず携帯から目を離さずに彼が片手をあげた。私は心の中で「初めから買いに行かせるつもりだったくせに」と舌打ちをする。私は財布と携帯をバックから引っこ抜き、彼の大きめのサンダルを引っ掻けてコンビニへと向かった。

コンビニに着くと、何だか小腹が空いてきた。おでん始めました、の文字に惹かれてレジ横のおでんブースを覗き込む。私は、自分用に糸こんにゃくと卵、彼の好物のがんも、そしてタバコを買って店を出た。素足に風がひゅっと通り抜けて思わず震えた。冬になると、諦めと焦りの混じった気持ちになる。今年も、就職活動はうまくいかなかった。うまくいかなかったというか、始めることすらしなかった。とぼとぼと、彼の家へ帰ろうとしたとき、ポケットに入れた携帯がぶるるっと震えた。

「緊急事態!急にかのじょがうちんち来た!とりあeず、お前の荷物とかは隠したから、かえったこないで」私はびっくりして彼からのラインを何度か読み返した。変換が間違っていたりするその文面からは彼の焦りが伝わってくる。「ほんと、勝手だなあ」怒りを通り越して、他人事みたいに呟いた。とにかく、私は今帰る家を失ったらしい。カフェで時間を潰すか、カラオケに行くか、考えていたらめんどくさくなってきた。「もう、いいや」私は、彼の家の方へ歩いていく。古い木造二階建てのアパートだし、一階の端の方で座っておけば、二階の彼の部屋から彼女が出てきてもわからないだろう。そうして、私はアパート一階の段差に腰かけたその時、後ろから声を掛けられた。

「ごめん、そこ私の自転車置くスペースなんだわ」勢いよく振り向くと、金髪に豹柄のコートという出で立ちのお姉さんが自転車を持って立っていた。私は、跳ねあがった心臓を押さえながら「すみません」といって避ける。背後で、自転車のスタンドが降ろされる音がした。「ねえ、誰か待ってんの?」「え?」私に言っているのかわからなくてお姉さんの方を振り向くと、がっつり目が合った。「あんた、誰か待ってんの?」お姉さんはもう一度聞いた。化粧の濃い、その顔からは怒っているのか感情が読み取りずらい。「ああ…はい、まあ」「そうなんだ。じゃあ、うちで時間潰せばいいよ」「はい?」「だって、11月だよ?11月に素足で女の子がうちんちの前に立ってると思ったら、気になってしょうがないじゃん」お姉さんは、そう言ってからニカッと笑った。案外、いい人なのかもしれない。私は、戸惑いながらもお姉さんのお部屋に足を踏み入れた。

→その2に、続く

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singer "song & novel" writer 岡山生まれ 本の虫

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