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妄想日記「友のキューピット」

金子みかん 21歳 学生 2020.11.20

英語の授業終了1分前、私は先生に見つからないようにリュックに教科書を入れていく。授業終了30秒前、出席カードに名前を書き込む。そして、授業終了のチャイムが鳴った瞬間、私は短距離走の陸上選手のように教室を飛び出した。廊下にズラッと並んでいる教室からまるで蜂が巣を飛び立つみたいに生徒たちがわらわらと出てくる。私は、いつも誰よりも早く廊下に飛び出して、今日もいつものごとく階段の踊り場の角に陣取った。

「おつー」しばらくすると、上から聞きなれた声が降ってくる。私の唯一の友達、春奈だ。ファッションに無頓着な春奈は、今日も昨日と同じスウェットを着ている。「ねえ、それ以外ないの?」「失礼だなー。おんなじスウェットを5着着回してんの、スティーブ・ジョブズ方式なの」「昨日は、母親の形見だから毎日着てるって言ってたよ」「そうだっけ?」いつものやり取りに二人で笑ってしまう。こういう彼女の適当な性格のおかげで、難しい性格の私でもうまく付き合うことができているのだと思う。ただ、一つの問題を除いては。

「とりあえず、ご飯食べよっか」「今日は、何定食だろうね」「木曜だから、唐揚げじゃない?」そんなことを言いながら、学食まで歩いていると向こうからいかにも女子大生という感じの派手な女子たちが歩いてくる。私とは違う世界に生きる女の子たちの登場に、私は思わず肩にぐっと力を入れて身構えた。その瞬間、女子たちがこちらに向かって「おつかれー」と手を振った。すると、春奈が「おお、裕子たちおつー」と手を振り返したではないか!私は、びっくりしてしまって彼女たちが去った後、春奈に言った。「ねえ、あの子たち誰?知り合い?」「うん、この前サークルのボーリング大会で一緒だったんだよね」「へえ」「てか、みかんも誘ったじゃん」「私、そういうの無理だもん。サークルだって入ってないし」そこまで言ってから、私は「まただ」と思った。私と春奈の最大の違いはこの社交性だ。細かいことは気にしないおおらかな性格と、明るさを持つ彼女には顔見知りが多い。サークルにも所属しているし、ゼミの先輩たちからも可愛がられている。この私にはない彼女の一面を目撃するとき、私はいつも惨めな気持ちになるのだった。だからせめて、彼女とのランチの時間だけは死守できるように、私はいつも誰よりも早く教室を飛び出し、階段の踊り場で彼女を待っている。

「んでー、今日のゼミの発表だけど…って、みかん聞いてる?」「ん?あ、ごめんごめん」唐揚げ定食を頬張りながら、心ここにあらずだった私は謝った。すると、春奈は目を細めてこう言った。「ねえ、またネガティブみかん出現してんの?」「へ?」「また、私なんて友達いないし、社交性ないし…とか考えてるんでしょ!?」私は驚いて叫ぶ。「ええ!なんで分かるの!?」「こんだけべったり友達してたら分かるようになるよ、そりゃ」「べったりって…やっぱりうざい?わたし」「ああー!もう、それ禁止!」春奈は、身体の前で大きく×を作って言った。その様子が面白くて、私はちょっと笑ってしまう。すると、春奈は真面目な顔になってこう言った。「あのさ、前から言おうと思ってたんだけど私みかんの(友のキューピット)になっていい?」私は聞いたこともない言葉に思わず聞き返す。「友のキューピットって何?」「そのまんまだよ!みかんにぴったりな友達を私がマッチングするの」「…やっぱり、うざいんじゃん」「そうじゃなくて!みかんは沢山見どころがある人なのに、いつまでも小さな世界にいるのはもったいないと思うんだよ」「でもさ、無理だもん。もう、大学3年だよ?今さら友達なんて…」そう言った私の言葉を遮って春奈はパンっと手を叩いた。そして、勢いよく身を乗り出して私の耳元で囁き始めた。「さて、まずあそこでキムチうどんを食べてる女の子は優紀って言います。おすすめポイントは、好きな漫画とアニメがみかんと一緒ってとこ」「へ、へえ。そんな風に見えないのに…」私も、春奈の声量に合わせて小さく呟く。「で、次はあっちで男子に囲まれてる美人ちゃんね。名前は、桜。おすすめポイントは、かなりがさつで家が超絶汚い」「それのどこがお勧めなの…」「みかんは、綺麗好きだし世話焼きだから、彼女の家に行ったらほっとけなくなるじゃん?桜は部屋がきれいになって嬉しい、みかんは友達ができて嬉しい、利害関係の一致だね」「な、なるほど…」「じゃ、次っ!!」そんな風に、春奈の(友のキューピット)は昼休み中続いた。どの友達候補も、私とは違う世界に住んでいるように見えるのに、私と共通点のある人ばかりだった。私は、もしかしたら見た目だけで人を判断するような人間になりかけていたのかもしれない。そう思うと、だんだん足元から勇気が湧きあがってくる気がした。私は、春奈の目を真っすぐ捉えてこう言った。「全員と…話してみたいな」すると、春奈は嬉しそうに「了解!」と私の手を握ってくれた。

大学三年生、21歳までの私の生き方を今、友のキューピットが変えようとしている。

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singer "song & novel" writer 岡山生まれ 本の虫

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