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みどりせんせい

大学四年の夏。
私は、学生生活で最大の難所「教育実習」を迎えた。担当は小学一年生のクラスと決まり、当時、青髪だった私は、髪を黒く染め、いざ!「ミニ先生」として教壇に立った瞬間、最前列の男の子がこう叫んだ。

「うわぁ。せんせ、髪の毛みどり!いけないんだー!」

私は、凍った。青い髪を黒く染めると緑になるとは………考えが浅かったと後悔した。慌てて「しーっ!」というも子ども達は「ほんとだー、みどりだー!」「なんでー?せんせ、何人ー?」「いけないんだー!」の嵐。

そうして、私はその日から
「みどりせんせい」になった。

みどりせんせい、は子どもが得意ではない。
子どもとでないにしても、お外で遊ぶのも得意ではない。
だから、同じクラスを担当している私以外の4人の実習生が、昼休みに元気よく子供達とドッチボールや鬼ごっこをしているのを教室から眺めていた。その時、少しだけ心がずきっとした。

それは、自分が小学生の頃
見ていた風景と同じだったからだ。

「せんせい、になってもこの風景を眺めて羨ましいと思うんだな、自分は」
そう思って寂しかった。

でも、みどりせんせいは絵が得意だった。
だから、小学生時代の自分のように
外で遊ぶのが得意でない子と
お絵かきをして遊んでいた。

「似顔絵描いてー。」
「みどりせんせい、私が先だよ!」
そういった具合に、絵のおかげで
室内ではそこそこな人気者になれた。

だが、みどりせんせいには
大きな問題があった。

それは、子どもたちの名前が覚えられないということ。

30人近くいる子どもの名前が覚えられない。
毎晩、ホテルで席の表を眺めて格闘するも、いざ授業となると子供を指名する時「えっと、じゃああなた!」と言った具合に名前が飛んでしまう。

子どもといち早く距離を縮めている実習生は共通して「子どもたちの名前を覚えていた」。その様子を見て焦る。そして、また授業で緊張して飛ぶ。そんなことの繰り返しだった。

そんな教育実習も佳境を迎えたある日。掃除の時間に、いつも通り子どもたちと掃除をしながら指導しているとある男の子が「みどりせんせい」と声をかけてきた。振り返り、しゃがんで目線を合わせる。そうすると彼は私の首にかけられた名札( 実習生は全員この名札をつけている )を引っ張って覗き込んだ。しばらく、じーっと見つめた後、彼はこう言った。

「これ、なんて読むの?」

その目線の先には私の本当の名前がある。小学一年生では、読めない漢字だ。私は何の気なしに答える。

「これは、○○○と読むんだよ。」

すると、男の子は申し訳なさそうに私の顔と名札を交互に見た後「じゃあ、みどりせんせいは○○○せんせいなんだね。」と言った。そして、私の名前を何度か復唱してニヤリと笑い去っていった。その後ろ姿を、「なんだろう」と私は首を傾げて見送った。

翌朝、教室に行くと昨日の男の子が「○○○せんせい、おはようございます!」と声をかけてきた。すると、周りの子どもたちが「えー?みどりせんせいだよー。」と言う。正直、自分ではどちらでもよかったのでその場しのぎの笑顔を作った。そうすると彼は「ちがうよ!みどりせんせいの本当の名前は○○○なんだよ!」と叫んだ。その瞬間、周りにいた子どもたちは一瞬固まり「そっかー。○○○せんせいなんだねー。」「本当の名前知らなかった!」と口々に言い、頷く。

その日から、私は
みどりせんせいではなく本名の方で呼ばれるようになった。

それは、自分が思っていた以上に
嬉しい体験だった。
自分が認知されたという安心感も半端じゃない。

その時、子どもたちが教師に
何を求めていたのかが少しだけわかった気がした。

「自分を見てほしい」
「自分を知ってほしい」

社会に出ると、「自分を薄める作業」も多く、自分を認知してくれているかいないかで態度を変えたりはしない。「そんなもんだ」と腹をくくっている。だけれど、大人になってもみんなどこかで思っているのではないか。

「私を見て。」
「僕を知って。」と。

大人になって忘れていた大切なことを
子どもたちに教えてもらった気がした。

つまり、みどりせんせいの先生は
子どもたちだったんだなぁ…。

そうして、社会人になって
家から出ないわりに
仕事で沢山の人と出会うようになった。

もちろん、全員を一発で覚えられる技が身につけばいいのだけれどそうはいかない。だから、「この前こういう話していたな」とか「何々が好きなんだっけ」とか、そういう相手の中身から覚えるようにしている。そうすると、2回目に会った時の距離がグンと近付く。

昔から来てくれているファンの人や
新しくこれから出会う人
仕事でお世話になる人を
「その人」として私の小さな脳みそに焼き付けるのが最近の私の目標だ。

明日は、「SETAのオールナイトニッポンi」第2回目の生配信。初めましての「 #カノエラナ さん」をお迎えしてトークをします。どんな人なのか、私なりのペースで近づければいいな、と思っています。 #note にて、19時ごろからスタート。ぜひ、聴いてくださいね。

SETA

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SETA 公式note

singer "song & novel" writer  岡山生まれ 本の虫

SETAの日々煩い

エッセイ、読書感想 etc.
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