
真っ赤なハイヒール
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21歳。真っ赤なエナメルのヒールパンプスを買った。初めて買う、いい靴だった。
大人の女性はいい靴とバックから始まるって
雑誌で見たのか、
誰からか聞いたのか、
そんな憧れがあったから
店舗に在庫がなくても諦めず
なんとか取り寄せてもらい手に入れた。
買い物袋をぶら下げて歩いた帰り道は、「大人なこと」をした気分で有頂天だった。
数日後、早速その真っ赤なヒールを履いて出かけてみた。デートだったのか、仕事だったのかは思い出せないけれど、目的地に着いた頃には靴ずれ発生!そのあとは、生まれたてのヒヨコみたいにひょこひょこ歩いて、かっこいい大人の女性とは真逆のみっともない姿で帰ったことを覚えている。
それ以来、その靴を見ると、恥ずかしい気持ちになって、ほとんど出番もなく、真っ赤なハイヒールは、現在もクローゼットに保管されている。何度か、「履いていないし処分しようか」と思ったけれど、結局捨てられない。
この靴は、大人になりたくて背伸びをしていた自分を思い出すことができるし、何より「私の憧れる大人は、無理して背伸びしない人だ」ってことを思い出させてくれる。
気づけば、26歳。
もうすぐ、27歳になる。
いつか、この靴が背伸びせずフィットする大人になる!
いつかまた、街に出られるようになったらこの靴を履いてちょっと贅沢なご飯に友達をお誘いしたい。いや、必ず行こう。
そして、もし靴擦れしたら
「まだまだだなぁ」って自分を
笑ってやりたい。
初心忘るべからず。
SETA
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歌絵文作家 岡山生まれ 本の虫