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妄想日記「親しい友達リスト」

藤田冬子 30歳 会社員

「親しい友達リスト」ってなんだ。ある日、朝起きていつものようにインスタグラムのストーリーを見ていたら、あるストーリーの右上に勲章みたいに緑の星のマークが付いていた。触れてみると、「親しい友達リスト」と表記されている。私は、何かの見間違いかと思って目をこすった。なぜなら、そのストーリーをあげた男の人と私は知り合い以上友達未満であって、絶対「親しい」ではない。そもそも、そんな親しい人にだけ見せる秘密のストーリーが、缶コーヒーの写真ってどういう事だ。そんなことを考えていたら、危うく遅刻しそうになった。恨めしき!インスタグラム!

それからは一日中、私を「親しい友達リスト」にいれた男性Nのことで頭がいっぱいだった。「なぜ?」と考え始めると、何も思い当たる節がない。男性Nに関する微かな情報を思い出そうとする。確か、数年前に知り合いと行った飲み会で出会い、その後あちらから私のインスタをフォローしてきてくれたのでフォローを返した。ただ、それだけだった。すると、「もしや、私の事を意識しているのか?」なんて愚かなことを考え始めたりする。男性Nのことを今まで何とも思っていなかった分、私の妄想は止まらない。ついには、今まで読んだことのなかった彼のプロフィール画面をじっと見つめ「へえ…脚本家なんだ…」と呟く。そして、そっと私の頬に触れると熱がこもっているではないか!慌てて私は、「リストにいれてもらえただけで意識し始める女なんて安すぎる!!」と自分で自分の頬をビンタした。

でも、ふと「これはチャンスなのでは?」とも思う。30歳、ただでさえ職場以外での出会いが限られてくるのに、今や時代はコロナだ。知らない人と出会って恋愛を始めるなんて、最も難しい時代だろう。しかし、一人で部屋にいる時間が増えたことで、ふつふつと湧き上がる「このまま一人でいいのか」という孤独。見えないウイルスに侵される前に、私の孤独が耐えられない…!!!私は、意を決してインスタグラムを開く。そして、設定画面に進み、「親しい友達リスト」のボタンを押した。すると、自分と相互フォローしているユーザーがリストになって表示されている。それぞれのプロフィール写真たちが私の指先でスクロールされていく。「ああ、こんな友達もいたなあ」「あれ、この子、子供産んだの?」「ええ!彼、イメチェンしすぎ!」なんて突っ込みながら、私はようやく男性Nのプロフィールにたどり着いた。今朝から、何度も見たモノクロのプロフィール画像……見れば見るほど渋さもあって脚本家という感じだ。私は、えいっと声に出して彼を「親しい友達リスト」に追加した。そして、気持ちが変わらないうちにストーリーを作成する。背景が一色のモードを選び、そこに質問バーを張り付ける。私は、そこに「あなたの趣味は何ですか?」と打ち込み、「親しい友達リスト」のみ見えるように選択し、投稿した。とは言え、私からの質問を見ることができるのは男性Nだけである。ソワソワしながら時間をやり過ごしているうちに、段々と冷静になってきた。「私…怖い女になってる…?」「やっぱり削除しよう」「取り返しがつかなくなる前に…!!!!」私は、大慌てでインスタグラムを開く。すると、誰かからDMが届いていた。恐る恐る開く。そして、送り主を確認した瞬間「あっ」と声が出た。なんと、そのDMは男性Nからの物だったのだ!一気に心が華やいで、彼が打ち込んだ文字を追う。そこには、「読書(特に、太宰治が好きです)」と書いてある。私は、顔がにへらとだらけるのをそのままにして、携帯をぎゅっと握りしめた。私のこれは、まだ「恋」ではないけれど、私の乾ききった孤独な時代が少しづつ潤いを取り戻していく。「親しい友達リスト」は、こんな時代でも繋がる勇気を私にくれたのだ。

私は、明日が少し、楽しみになる。

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歌絵文作家 岡山生まれ 本の虫