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妄想日記「あなたより劣っていてあなたより勝っているわたし」

牧野つばさ 24歳 作家志望 2020.10.29

私は、自分の劣っているところを見つける天才だ。よく言えば、相手が自分をより勝っているところ(良い所)を見つける才能があるってことだ。例えば、百合ちゃんは美人で、スタイルが良くて、華がある。さえ子ちゃんは、お話が上手で友達が多い。明菜ちゃんは、仕事ができて収入が多い。そんな風に、どんな人でも私より勝っていて、対する私は自分の人より劣っている点に目が行ってしまう体質なのだ。

「え、まって。それって超疲れない?」青山のおしゃれなカフェに、百合ちゃんのため息が響く。私は、友人とのランチにこんな陰気な話題を提示してしまった自分を呪った。コロナによる仕事の影響の話題から、明るい話に変えようと思ったら、いつものごとく失敗してしまったのだ。「ごめん」と呟き、自分の出来の悪さにため息が出た。「つばさ、せっかくのミルフィーユがため息のミルフィーユになっちゃうよ?」目の前のお皿の上には、マスカットをふんだんに使ったミルフィーユがキラキラと輝いている。そのお皿の向こうには、百合ちゃんの綺麗な顔がある。「百合ちゃんは、やっぱこういう綺麗なお菓子がすごく似合うね」「そう?褒めてくれてる?」「うん」「ほら、早く食べよ。美味しいよ」促されるままに、一口食べる。ふわっと広がる甘さと後からやってくる酸味が絶妙で、いやらしくない。「ほんとだ、美味しいね」思わずほっぺたが持ち上がるのを感じた。そんな私を見て、百合ちゃんがホッとしたみたいに笑った。

「私さ、つばさほど色んなこと考えてる人会ったことないよ」ミルフィーユも残りあと少しになった時、百合ちゃんがそう言った。「ああ、私すごくネガティブだから」言い慣れたセリフが自然と私の口から零れる。そうだ、百合ちゃんほど容姿に恵まれていたら、さえ子ちゃんみたいにお話が上手だったら、明菜ちゃんみたいに仕事が出来たら、もう少し明るい人間になったかもしれない。すると、百合ちゃんが私の心を読んだかのように言った。「あのさ、先に言っておくと私の容姿は生まれつきじゃないのよ。小学生の時なんかデブって虐められたことだってあるよ」「え」私は、驚く。百合ちゃんが、デブ…?「体系で、私の価値を決められちゃうのが悔しかったから頑張ってダイエットして、そしたら恋人が初めてできて、もっと好かれたいからメイクとか服とか自分に似合うものを研究して…今に至るの」「努力家で、すごいね」「でしょ?」百合ちゃんは得意げに鼻を鳴らした。「でもさ、今度は容姿で近づいてくる人間が増えて、嫌になってきたの。同性は、飾りとして私と友達になりたがるし、異性は、鼻の下伸ばして近づいてくるしさ。私の中身を見てよ!!ってね。我儘だよねえ。」百合ちゃんはそう言って、私の方をみてこう言った。「だからさ、みんな無いものねだりなんだよ。私は、つばさのその小さなことを深く考えるところ好きだよ。そこから、つばさの頭の中に物語が生まれるんだなあって思うと、羨ましい。才能があって」私は、顔の前で手をぶんぶん振りながら叫んだ。「そんなことないよ!まだ、作家志望なだけだし、プロじゃないもん!」百合ちゃんは、ふふっと笑った。「そう言うと思った。じゃあ、これならどう?私は、つばさよりも見た目は綺麗かもしれないけど、何かを作り出したりする才能はなくて、つばさにはそれがあって、だから私たち友達としてうまくいってるんだよ」百合ちゃんの飾りのない正直な言葉が、私の脳を突き抜けてまっすぐ心に響いた。

「じゃあ、私は百合ちゃんより劣ってもいて、百合ちゃんより勝ってもいるからいいんだね」「うん、そういうこと。という事で、未来の大先生!今後も私の友達としてよろしくね!」百合ちゃんは、そう豪快に言って机の上に置かれたお会計を持ってレジへと駆けてゆく。「ちょっ!私も払うよ…!」私は、慌てて席を立ち百合ちゃんの綺麗な背中を追いかけた。

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歌絵文作家 岡山生まれ 本の虫

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