SETAの日々煩い

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妄想日記「全部、鍋の中」その2



そこまで読んでから、私は昔の苦い記憶を思い出した。幼稚園の頃、友達だった桃ちゃんと些細なことで喧嘩した。当時好きだった、おジャ魔女どれみのキラキラしたシールを私の前にかざしながら桃ちゃんはこう言った。「私、他のシールも沢山あるから、りこちゃんにもあげるよ」そう言われた私は嬉しくて桃ちゃんの家に遊びに行くと、桃ちゃんはくるりと振り返って笑った。「やっぱり、あげない!!!!」その瞬間、火が付いた

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妄想日記「全部、鍋の中」その1

葉加瀬理子 16歳 高校生

人は大体、眠った瞬間を覚えていない。だから、夢を見ていても途中まで夢だと気づかないことがある。今夜のように、夢の始まりが現実味を帯びているときは絶対に分からない。きっと、魂が私の身体にばれないようにそおっと夢への扉を開けたんだ。

そこは、慣れ親しんだ我が家のリビング。明るくて、長持ちするLEDライトがサンサンとダイニングテーブルを照らしている。ただ、いつもと違うのは

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楽描き「あなたへ」

あなたは
どんなおとなになるのかな
ふっくら炊きあがった豆みたいな
かわいい手のひらのまま
大きくなってくれたらな

どんなおんなになるのかな
どうか自分のために生きて欲しい
真っ直ぐな笑顔のまま
素敵なおんなになってね

どんな夢をもつのかな
本当はあんまり
びっくりさせないで欲しいけど
手放したくない夢を
ひとつだけ見つけてね

どんな人を好きになるのかな
車が好きな人と賭け事する人は
やめて

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妄想日記「親しい友達リスト」

藤田冬子 30歳 会社員

「親しい友達リスト」ってなんだ。ある日、朝起きていつものようにインスタグラムのストーリーを見ていたら、あるストーリーの右上に勲章みたいに緑の星のマークが付いていた。触れてみると、「親しい友達リスト」と表記されている。私は、何かの見間違いかと思って目をこすった。なぜなら、そのストーリーをあげた男の人と私は知り合い以上友達未満であって、絶対「親しい」ではない。そもそも、そん

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楽描き「5年後の私に」

タイムスリップできるなら
過去と未来どちらを選ぶ?
そう聞かれて 過去を選ぶとき
それは未来が不安なときだ

久しぶりの仲間と同窓会
あの頃は、の話題で
持ちきりなのは
過去にしか僕らがいないからだ

バブルを知らない私に
バブルの様子を語り継ぐ先輩たち

こんな風に
お金を使って
あんな風に
踊り明かしたんだ、と

コロナを知らない子供たちに
いつか私も語り継ぐのだろうか

こんな風に
マスクを

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楽描き「空から見下ろせば」

空を見上げると
ああ、遠い、と思った
16歳、煮えたぎる夏のまんなかで

恋人との諍いも
傘を盗んだことも
親にはいえないような
女の子たちの語らいも

空から見下ろせば
ああ、遠い、と思うのだろうか

いま、東京の空を見上げると
ああ、狭い、と思う
ビルに押し潰された空も世の中も

友達の友達が実は同僚で
お隣さんと同じ病院に通う
ニュースはいつも同じ話題で
みんな何かに怒っていた

空から見下

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妄想日記「母とLINE電話」

「ああ、この前のお茶ありがとう。おいしかった」
目の前には、開けたばかりの段ボールと大量のお茶のパッケージがある。その中から一つ取り出して、パッケージに書かれた説明を見ながら母と電話をしている。まだ飲んではいないのだけれど、ここ最近仕事が忙しくて段ボールを開封するまで日にちが空いてしまった。罪滅ぼしの嘘だった。
「よかった。あれ、○○って店で見つけて、一つ一つ手作業で作ってるんだって」
「ふぅん、

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楽描き「抱きしめたい」

わたしはいま
抱きしめたい

去年の終わりに
未来が見えたなら
すれ違う人すべて
抱きしめたのに

春には 手作りマスクを作り
夏には 暑さでマスクと死闘した
秋には それが当たり前となり
冬には 誰も何も言わなくなった

いつから母の胸に
飛び込むのが恥ずかしくなったのか
もう忘れてしまったみたいに

友達と酔った中目黒
外国人みたいなハグをして
ふわっと香ったシャンプーの匂いも
もう忘れてしま

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妄想日記「骨とLINE電話」

金木あや 24歳 アルバイト

「俺たちってなんなんだろうな」
お風呂あがり、いつものように男とLINE電話を繋いでいた。テレビを見ながらかける時もあれば、本当にすることがないからかける時もある。どちらにせよ、無料でいつまでも電話ができるのだからいい世の中になったものだ。わたしは、ほとんど何も考えずに声を出した。
「俺たちって?」
「付き合ってないけどセックスはする、長電話もする」
「なんでも、い

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妄想日記「愛されたい人」その2



私の脳裏に、6年前の私がなだれ込んでくる。大学を卒業するにあたって、フリーランスの道を選んだ私はその不安と緊張からやけくそな毎日を送っていた。その場限りのつもりで酒を煽り、クライアントになりそうな人間と寝たりもした。そうして、調子が良い子としてある程度年上との対話が増えると、私はカッコいい言葉で自分を武装するようになった。まるで、身体を裂くように現実の私と理想の私はかけ離れていく。ある日、い

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