SETAの日々煩い

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楽描き「空から見下ろせば」

空を見上げると
ああ、遠い、と思った
16歳、煮えたぎる夏のまんなかで

恋人との諍いも
傘を盗んだことも
親にはいえないような
女の子たちの語らいも

空から見下ろせば
ああ、遠い、と思うのだろうか

いま、東京の空を見上げると
ああ、狭い、と思う
ビルに押し潰された空も世の中も

友達の友達が実は同僚で
お隣さんと同じ病院に通う
ニュースはいつも同じ話題で
みんな何かに怒っていた

空から見下

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妄想日記「母とLINE電話」

「ああ、この前のお茶ありがとう。おいしかった」
目の前には、開けたばかりの段ボールと大量のお茶のパッケージがある。その中から一つ取り出して、パッケージに書かれた説明を見ながら母と電話をしている。まだ飲んではいないのだけれど、ここ最近仕事が忙しくて段ボールを開封するまで日にちが空いてしまった。罪滅ぼしの嘘だった。
「よかった。あれ、○○って店で見つけて、一つ一つ手作業で作ってるんだって」
「ふぅん、

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楽描き「抱きしめたい」

わたしはいま
抱きしめたい

去年の終わりに
未来が見えたなら
すれ違う人すべて
抱きしめたのに

春には 手作りマスクを作り
夏には 暑さでマスクと死闘した
秋には それが当たり前となり
冬には 誰も何も言わなくなった

いつから母の胸に
飛び込むのが恥ずかしくなったのか
もう忘れてしまったみたいに

友達と酔った中目黒
外国人みたいなハグをして
ふわっと香ったシャンプーの匂いも
もう忘れてしま

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妄想日記「骨とLINE電話」

金木あや 24歳 アルバイト

「俺たちってなんなんだろうな」
お風呂あがり、いつものように男とLINE電話を繋いでいた。テレビを見ながらかける時もあれば、本当にすることがないからかける時もある。どちらにせよ、無料でいつまでも電話ができるのだからいい世の中になったものだ。わたしは、ほとんど何も考えずに声を出した。
「俺たちって?」
「付き合ってないけどセックスはする、長電話もする」
「なんでも、い

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妄想日記「愛されたい人」その2



私の脳裏に、6年前の私がなだれ込んでくる。大学を卒業するにあたって、フリーランスの道を選んだ私はその不安と緊張からやけくそな毎日を送っていた。その場限りのつもりで酒を煽り、クライアントになりそうな人間と寝たりもした。そうして、調子が良い子としてある程度年上との対話が増えると、私はカッコいい言葉で自分を武装するようになった。まるで、身体を裂くように現実の私と理想の私はかけ離れていく。ある日、い

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妄想日記「愛されたい人」その1

嘉田まき 映像ディレクター 28歳 2020.12.17

「今、目の前に6年前の私がいる」中目黒の居酒屋の個室で、知り合ったばかりの美大生と熱燗を分け合いながら、私はそう思った。都内の美大で映像を学んでいるという美咲とは、とあるアーティストのミュージックビデオの撮影現場で出会った。撮影現場にお手伝いとして、学生がやってくることはよくある事だ。しかし、彼女は他の学生と少し雰囲気が違っていた。まず、

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妄想日記「冬の線香花火」

吉田みお 28歳 フリーランス 2020.12.12

衣替えをしていたら、線香花火が出てきた。しかも、3本だけ。どんな残し方をしてるんだ、と思ったけれど多分なにも理由なんてなかったんだと思う。ただ、夏に忘れられた線香花火が3本ありましたとさ。それだけの事だ。とはいえ、その線香花火を見ていると、私はひそかにワクワクしてきた。今年の夏は、夏らしいことが何もできなかったから、神様が3本だけ線香花火を恵

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妄想日記「ほんの優しさ」

水樹まりも 33歳 八百屋 2020.12.10

小学生の頃、私は時々給食の牛乳を盗んだ。盗んだといっても、自分の牛乳を飲まずに持ち帰るか、給食当番の時に余った牛乳を拝借していたのだが、先生に見つかり大変怒られた。なぜ、そんなことをしたのか。先生は、そう私を問い詰めた。私は、しゃくりあげながら「子猫に、あげるんです」と答えた。すると、先生はこう言った。「それは、優しさじゃない。ほんの優しさなのよ

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妄想日記「私の聖域」

佐々木夢 25歳 会社員 2020.12.8

台所が汚れてくると、私の調子も悪くなる。嘘だ、と思われるかもしれないが、これが本当なのである。排水溝が詰まると、ニキビができ、油汚れをそのままにしておくと、身体がだるくなる。だから、綺麗好きだとかそういう理由ではなく、自分の体調管理に「台所掃除」が含まれているから私は掃除をするのだ。

「それ、気のせいでしょ?」我が家に遊びに来た同僚の花が、台所でタ

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妄想日記「横浜小旅行」

戸塚透子 29歳 2020.12.1

あの頃、旅行と言えば「横浜」だった。10代でお金もなかったし、ちょっと遠くて街を歩くだけで旅行気分が味わえる横浜は、特別な日のデートにもってこいだった。今、29歳になって旅行ではなく仕事で横浜にやってきた私は、そんなことを思い出していた。

「先輩、次の打ち合わせまで2時間あるので昼ご飯にしませんか?」打ち合わせが終わるや否や後輩の美玖が軽くお腹を押さえなが

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